悪性腫瘍の治療において抗癌剤を用いた化学療法は、癌の再発・転移を抑制する上で有効な治療法である。しかし、癌化学療法を行った後に再発・転移を起こした腫瘍は、抗癌剤に対して耐性を獲得している可能性が高く、従来の抗癌剤では十分な効果が得られない症例をしばしば経験する。我々はこれまで扁平上皮癌(SCC)と唾液腺由来腺癌(SAC)を中心に、その細胞膜脂質組成と同組成のリポソームを用いたドラッグ・デリバリー・システムを開発してきた。 今回、口腔由来扁平上皮癌細胞NAおよび唾液腺由来腺癌細胞HSYを用いて無血清培養条件下で、cisplatin(CDDP)とadriamycin(ADM)に対する耐性腫瘍細胞株の樹立を試みた。その結果として、CDDPおよびADMに耐性を示すNA-CDDPとNA-ADMの2つの耐性株の樹立に成功した。これらの細胞株は耐性を誘導するために用いた抗癌剤に対しては、親株に比べて2倍以上の耐性を示すことが明らかになった。しかし他の抗癌剤に対する多剤耐性能の獲得は明らかでなかった。次いで耐性の獲得の機序を明らかにするため、薬剤耐性遺伝子であるABCスーパーファミリーのうちMDR-1、MRP-1、-2、-3および薬剤解毒機構に関連するGSTpiの遺伝子発現を定量RT-PCR法を用いて検討した。その結果、NA-CDDPでは、MRP-2とGSTpiの遺伝子発現が上昇していた。またNA-ADMでは、MDR-1の遺伝子発現が著明に亢進していることが明らかになった。 今後、これらの耐性株の細胞膜脂質の検索を行い、それらと同組成の脂質からなる抗癌剤封入リポソームを作製し、培養細胞や移植腫瘍に作用させ、その抗腫瘍効果についてさらに検討する予定である。
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