研究概要 |
申請者らは,HIF-1α蛋白の酸素分圧応答性蛋白質分解領域(ODDDまたはN-TAD)を同定し,その機能的構造について詳細に検討してきた。これらの結果をもとにして,ヒト検体においてHIF-1α遺伝子に機能的変化を伴う多型が存在するか,口腔癌患者および対照健常者検体を用いてN-TADをコードするHIF-1α遺伝子exon12領域における遺伝子多型をDHPLC法やSequence法にてスクリーニングした。その結果,582番目のProlineがSerineへ置換するP582S型アリルと588番目のAlanineがThreonineに置換するA588T型アリルを有する遺伝子型が見出された。それぞれの遺伝子型HIF-1α発現ベクターを作製し,COS7細胞に一過性に発現させ,HRE誘導Luciferaseレポーター実験にて検討したところ,興味深い事に,アミノ酸置換型HIF-1α蛋白は,野生型に比べて非常に強い転写活性化能を示した。分子病理および疫学的解析により,活性型の遺伝子アリルを持つ患者(ヘテロ)の腫瘍は,野性型(ホモ)に比して,有意に多くの腫瘍内血管を有すること,初診時腫瘍径が大きいことが明らかとなった(現在投稿中)。以上より,HIF-1α遺伝子の転写活性化能に違いが認められる遺伝子多型が固形癌の血管新生,増殖や進展に関与することが示唆され,HIF-1α遺伝子多型が癌の診断に,そしてHIF-1α機能制御が癌の制御に結びつく可能性が示された。 現在,HRE-Luciferaseレポーター実験のシステムを用いて,HIF-1α機能を標的とした薬剤のスクリーニングを行っており,今後のそれら薬剤の口腔癌細胞へおよぼす影響を,in vitro実験系により解析し,臨床化学療法,さらに予防への応用展開を目指している。
|