(1)顎関節症患者のスプリントの装着が、前腕の温覚閾値および温刺激による疼痛閾値を上昇させたが、冷覚閾値、冷刺激による疼痛閾値および触(振動)覚閾値は変化がなかった。顎関節症患者は下行性疼痛抑制形機能の機能不全状態であり、スプリント装着で主にC線維を中心とした侵害刺激の抑制効果が期待できるかもしれない。 (2)スプリント装着の際に、咬合接触があるかないかに着目しての握力の検討を行ったところ、スプリント非装着咬合時とスプリント装着開口間の比較で、スプリント非装着咬合時の握力が有意に高くなり、さらにスプリント非装着時咬合時とスプリント装着開口時の比較でもスプリント非装着咬合時の握力が有意に高くなった。筋力の増加は、スプリント装着効果および装着に伴うフラセボ効果というよりもむしろ咬合接触から来る求心性の刺激が強く寄与している可能性が高いと考えられた。 (3)上腕の阻血による対向刺激が、最大咬合力および最大指圧力を有意に増加させることがわかった。虚血による侵害刺激が脳幹部のオピオイド生成を促し、所属する神経領域を超えた範囲での疼痛を抑制されるいわゆる下行性疼痛抑制系が賦活されたものと考えられた。 (4)筋硬度計の比較的アプローチが容易な咬筋および側頭筋に対してその有効性と信頼性を検討した。その結果、今回用いた簡易筋硬度計は咬筋の筋硬度測定では有用性があり信頼できるが、側頭筋は筋が薄く、利用不可能と思われた。 (5)上記の筋硬度計を用いて、顎関節症患者の咬筋の各種噛みしめ時の筋硬度を正常者のそれと比較した。いずれの噛みしめ力においても両群間に筋硬度の差はなかったが、顎関節症群が、噛みしめ後の筋硬度のreturnがやや遅延する傾向にあった。噛みしめ後の血液の咬筋内への再環流(repufusion)が遅延する為であろうと考えられた。
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