我々は、顎関節円板の細胞外基質の変性機構を解明するため、ヒト顎関節滑膜の培養系や関節円板の免疫組織学的研究を行い、IL-1β、ケラタン硫酸、コンドロイチン硫酸、TGF-β、テネシン、VEGF等の動態を報告してきた。その成果により、病的変性した滑膜から放出されるサイトカインや、反復物理的刺激とそれに関連した関節包内の低酸素状態が、関節円板の細胞外基質の変性に重要な役割を果たしているという仮説を立てるに至った。そこで、このような環境が関節円板にどのような影響をおよぼすかを細胞レベルで観察するために、実験動物の培養系の樹立が必要であると考えた。今年度我々は、モルモットの顎関節円板線維軟骨細胞の培養に成功し、これをもちいてサイトカイン刺激や反復物理的刺激、低酸素環境での細胞動態、とくにプロテオグリカン合成の動態を解析中である。 一方、顎関節症における滑膜炎が滑膜骨軟骨腫症の発症に関連しているのではないかと推測し、滑膜骨軟骨腫症と顎関節症を滑膜培養細胞にて比較検討した。培養した細胞よりRNAを抽出し、各蛋白のmRNAの発現を比較した。その結果、滑膜骨軟骨腫症でより多いmRNAの発現を示した蛋白は、2型コラーゲン、10型コラーゲンなどであった。これらの結果から顎関節症の滑膜よりも、滑膜骨軟骨腫症の滑膜のほうがより軟骨組織に近い蛋白のmRNAを発現していると考えられた。病的変性した滑膜から放出されるサイトカインと滑膜の軟骨化生の関係については解析中である。
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