本研究は、口腔扁平上皮癌におけるCx26遺伝子の発現状態を明らかにし、さらにそれらと臨床病理学所見との関係を検討し、Cx26遺伝子の浸潤、転移との関わりならびに臨床的意義を明らかにする目的で行った。 方法はRT-PCR法によりCx26遺伝子の発現について、ヒト口腔扁平上皮癌由来の細胞株(OSC-20、SAS-H、SAS-L)、これらの細胞株の移植実験により発癌した組織とその転移巣、ならびに生検材料より得られた口腔扁平上皮癌についてRT-PCR法により分析した。また、生検材料より得られた口腔扁平上皮癌については、併せて臨床病理所見と比較検討した。 その結果、口腔扁平上皮癌では、原発部位ならびに転移巣においてコネキシン26遺伝子の発現がみられるが、転移のないものにはその発現は認められず、口腔扁平上皮癌の転移にコネキシン26遺伝子は何らかの関連を有していること、また、口腔扁平上皮癌細胞株ではCx26遺伝子の発現がなかったにも関らず、移植により発癌した扁平上皮癌には本遺伝子の発現がみられたことは興味ある結果で、間葉系組織との関わりが重要であることが示唆された。このことには、今後さらに検討する必要があると思われる。 生検材料から得られた本遺伝子と臨床病理学的因子との関連では、32例中10例(31.3%)にコネキシン26遺伝子が発現し、22例(68.7%)には発現がみられなかった。そして、本遺伝子発現例は、有意に所属リンパ節の病理診断・pN(p=0.01114)と相関がみられた。しかし、性別、腫瘍の大きさ、所属リンパ節転移、浸潤様式あるいは浸潤程度などは、本遺伝子との関係はみられなかった。 以上の結果から、コネキシン26遺伝子は、口腔扁平上皮癌においても転移と関連し、特に間葉系組織との関係が重要であること、また口腔扁平上皮癌の転移能を知る有効な手段に成り得ることが示唆された。
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