研究概要 |
口腔の2大疾患のひとつである歯周病は特定の病原性菌による感染症的色彩が強い疾患であるため,類似した臨床症状を呈する場合であっても,歯周病の進行性や治療への反応性はプラーク中の細菌種の違いによって大きく異なる.従って,歯周病の細菌学的リスク因子を的確に把握するためには,「病原菌のモニタリング」が治療方針の立案・経過の予知には非常に有用である.歯周病の進行性や治療への反応性を予知するための「歯周状態の変化に伴うプラーク中の細菌成分の消長」に関する情報を収集することが本研究の目的である.歯周病患者および健康歯周組織を有する被験者より採取した歯肉縁下プラークを採取し,10種の歯周病原性菌の有無をPCR法により同定した.その結果,歯周病患者のプラークからは,T.denticola(p<0.001), P. gingivalis(p<0.001), B.forsythus(p<0.01), C. rectus(p<0.05)が健康対照群に比べ有意に高い頻度で検出された.逆に,E. corrodens(p<0.001),C. ochracea(p<0.05)は有意に低い頻度で検出された.P. intermedia, P.nigrescens, A. actinomycetemcomitans, C. sputigenaの4菌種の検出率は,両群ともに高頻度で検出され,分布率に有意な差は認められなかった.さらに歯周病患者に対し,Er : YAGレーザーを用いた歯周治療を行ったところ, P. gingivalisは76.1%から52.1%, B. forsythusは64.8%から47.9%へと検出部位率の有意な低下を認めた.一方, A. actinomycetemcomitans, T. denticola, P. intermedia, P. nigrescensでは検出部位率に有意な差を認めなかった.臨床症状の改善に伴い,各歯周病菌の検出率が変化したことより,特定のプラーク細菌成分の消長をモニタリングすることにより,歯周病の進行性や治療への反応性を予知することが可能であることが示唆された.
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