顎顔面骨格は、複雑な構造をしており、その成り立ちや形成過程はいまだよくわかっていない。本研究では、鼻や口唇、上顎を形成する前頭鼻突起のパターニングについて検討した。 Stage22 Chickの前頭鼻突起の中央部と側方部を摘出、細胞単位まで分散させた。培養後、細胞を集め、前頭鼻突起の上皮と一緒に再構成した組織を、Chickのlimb budに移植した。側方部の細胞移植片からは、枝分かれした軟骨が形成されたのに対し、中央部からは直線状の軟骨が形成され、一部には孵化直前に嘴先端に見られるegg toothが認められた。両者を同率で混合すると2〜3に枝分かれした軟骨が形成された。しかも、これら軟骨形成は、移植片と前頭鼻突起あるいは下顎突起上皮の存在下でのみ起こり、上皮非存在下では軟骨形成が起こらなかった。移植後24時間では、中央部から分離した細胞にはMsx-2の発現が認められず、側方部から分離した組織では、片側もしくは両端の上皮下の間葉細胞にMsx-2の発現が認められた。中央部と側方部の細胞を混合して構成した組織では、モザイク状のMsx-2発現がみられた。再構成する上皮を下顎突起上皮に入れ替えても、同様の結果が得られた。移植後48時間では、中央部から分離した細胞にも上皮の存在下により、側方部組織と同様にMsx-2発現が誘導された。Stage 22 Chick embryoでは、Msx-2は前頭鼻突起の両端に発現し、中央では発現が見られなかった。Msx-2は、軟骨形成を抑制する働きが報告されており、Msx-2を強く発現する側方部では、軟骨形成能が抑えられ、逆に中央部では軟骨形成が強くなるため、中央部組織ではrod状の軟骨を形成しやすいと考えられた。以上の結果、前頭鼻突起におけるMsx-2遺伝子の発現局在と軟骨形成様式の違いが、顔面中央部の組織パターン形成に関与していることが示唆された。
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