研究概要 |
エナメル質形成不全に罹患していない健全な日本人を中心としたアジア人を被検者とした。被検者に対して大阪大学歯学部倫理委員会において承認された規約に基づき,十分な説明を行ったのち,被験者の同意のもとに静脈血を採取した。この静脈血より被検者個々のゲノムDNAを抽出し,polymerase chain reaction(PCR)によってこのDNAを増幅した。プライマーはエクソン全域と全てのスプライス部位を増幅できるように設計した。続いて,このPCR産物をテンプレートとしてダイレクトシークエンスを行ない,被験者個々の塩基配列を決定,比較することによってアメロブラスチン遺伝子の遺伝子多型を検討した。各々のエクソンおよびスプライス部位の塩基配列を被験者間で相互に比較した結果,エクソン13には平成13年度に報告した以外の1塩基多型(SNP)が認められた。また,エクソン13以外のエクソンにおいても同様の多型が見いだされ,平成13年度には探知できなかったコードされるアミノ酸が変化する非同義置換も認められた。さらには一つのアミノ酸をコードするコドンの3塩基が欠失する遺伝子多型をも発見するに至った。これらの多型のいくつかは,スエーデン人集団を対象とした同様の研究においても報告されていないものであった。一方で,アメロブラスチンタンパク質の機能領域を分子進化学的手法により推察すべく爬虫類(メガネカイマンワニ)の相同遺伝子をクローニングしたところ,哺乳類との間に保存性が高く重要な機能を果たしていると考えられる領域と一致したヒトアメロブラスチン遺伝子のエクソンにおいては多型は認められず,ヒトのアメロブラスチン遺伝子における多型変化は,機能的な制約を受けず,選択圧の比較的少ない部分に起こっていることがわかった。このことは今後被検者の数を増やすとともにさらに詳細なデータを検討していく上で,非常に重要で有用な所見である。なお,これまでに得られたデータを元にエナメル形成不全症患者一人のアメロブラスチン・アメロジェニン両遺伝子の変異検索を行ったが,正常なヒトから見つかった多型以外の塩基置換は発見できなかった。
|