研究概要 |
歯根吸収のモデル実験として,前破骨細胞株(RAW264.7細胞)において,破歯細胞(破骨細胞)分化へのストレスタンパク質の影響について調べた。RAW264.7細胞を培養し,最大100ng/mlまでのリコンビナント・ヒトHSP70および90で刺激し,サイトカイン(IL1,6,TNF-α)の産生,及び破骨細胞分化に影与える響を調べたところ,サイトカインの産生は見られず,破骨細胞分化に及ぼす影響も認められなかった。次にスレスタンパク質(HSP70,90)がこのシグナル伝達に変化を与える可能性について検討した。歯根吸収は骨芽細胞等が発現する受容体であるRANKL(Receptor Activator of Nuclear Ffactor kappa B Ligand)により,破歯細胞が分化誘導されることにより引き起こされると考えられるが,そのRANKLから前破骨細胞に入るシグナル伝達物質の中にMAPK(Mitogen Activated Ptotein Kinase)がある。RANKL刺激によりMAPKのファミリーであるERK(Extracellular ignal-Regulated Kjnase)およびp38がリン酸化されることが知られているが、その実験系にストレスタンパク質を存在させても,リン酸化を促進することも抑制することもなく,ストレスタンパク質が歯根吸収に関わるという証拠を得ることはできなかった。しかしながら,破骨細胞の分化に影響する因子について調べていたところ,非常に重要なシグナル因子MEK(MAPK/ERK kinase)を発見した。RAW264.7細胞をRANKL刺激分化誘導培養系にMEK阻害剤を添加すると,被骨細胞分化への影響は細胞の播種数により大きく変化した。低密度で細胞を播種した場合は分化抑制的に働くが,高密度に播種した場合は分化促進的に働いた。この発見はシグナル伝達阻害により破骨細胞分化を促進するという最初の報告になった。
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