研究概要 |
目的:本研究は,患者の顔貌の不満足度と心理特性,および術後の治療への満足度との関連を調べることを目的とした. 対象と方法:対象は、外科手術予定の下顎前突症患者75名(患者群,平均21.8歳)である.対照群として,標準的な顔面骨格の学生128名(一般群,平均20.8歳)を用いた.顔貌の不満足度を0〜10点で調査(自己評価)し、MINI-124性格検査(MMPI短縮版)を用いて心理特性を調べ,2群間で比較した.また,患者群における顔貌の不満足度と下顎前突の程度,性別,年齢,および心理特性との相関を調べた.次に患者75名のうち,手術後一年以上経過した48名について,同様の検討を行った. 結果: 1.治療前の顔貌の不満足度と心理特性:1)患者の顔貌の不満足度は7.2点で対象群(4.2点)より高く,特に下顎面と顔の輪郭にこだわりが見られた.2)患者群のMMPI得点はPd, Pt, Ma尺度で有意に高く,HsとHy尺度で有意に低かった.3)患者群における顔貌の不満足度は,下顎前突の程度とは相関がなく,女性で男性より高く,年齢が増すほど高かった.また,MMPIのD, Pd尺度と有意な正の相関がみられた. 2.治療後の顔貌への不満度と心理特性:1)患者の顔貌の不満足度は術後に平均3.0点に減少した.2)MMPIのF, Ma尺度が有意に減少した.3)術後の顔貌の不満足度は術前のPd尺度,および顔貌の不満足度と有意な正の相関があった. 考察と結論:患者の不満足度は一般群より高く,抑欝,社会的不適応,敏感さなどの心理特性が関連していた.手術後に顔貌への不満足度は減少し,風変わりな思考や衝動性などの心理特性も減少した.また,術後の顔貌への不満足度には,術前の社会的不適応や顔貌への不満足度が関連し,術前から患者の心理特性や悩みの強さやを考慮した治療が必要と考えられた.
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