近年、医学分野においてサーモグラフィによる診断は数多くなされている。その理由は無侵襲、放射線被爆がない、被験者に対し物理的刺激などを繰り返しできることなどによるものである。また、従来型の機器では必要であった冷却装置や冷媒などが不必要となり、より簡潔で低ランニングコストのものが開発されている。さらに温度情報も高精度化し、ようやく口腔内などの微細なエリアに対し測定が可能となった。 サーモグラフィの主な医学的応用は炎症部位の検索や血流障害の診断であるが、歯科的には顔面部軟組織に応用する以外、診断手法としては用いられていなかった。そこで今回、外見的には判別が不可能な、血流変化を伴う外傷歯の歯髄の生死について、サーモグラフィを用いて末消循環血流の障害について検討を行った。 本年度は測定に必要な基礎データーの収集を目的とし、研究目的に同意を得た22歳の成人女性1名、および保護者の了解が得られた10歳女児1名を用いて測定環境要因の分析を行った。測定は富士通社製サーモグラフィ、インフラアイ1200を用い、計測機器から得られた情報を小型プリンタで出力し、さらにパソコン上にデータを蓄積した上で詳細に検討を行った。また測定環境条件の確認のため、同時にデジタルビデオにて動画を保存した。 1、顔面表層皮膚を用いて、測定室の室温、湿度、光線、風量、室温慣化時間、遮蔽の状態、有無、体位、日内変動などについて最適条件の検索を行った。 2、歯表面温度を阻害する口唇熱、呼気熱の影響を排除させる器具をウルトラフォーマーを用いて作成し、歯冠部の温度測定を行った。 3、冷温負荷試験、運動負荷、歯表面の蓄熱性についての検討を行った。 4、生活歯、非生活歯間の差異について検討を行った。 これらの結果から、測定に必要な一定条件が定義され、生活歯と非生活歯間における差異について、判別が可能となった。今後は外傷受傷直後の変化が現れにくい時期の検索を行なっていく。
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