近年まで外傷歯の変色は不可逆的な歯髄壊死を意味するものとして捉えられてきた。しかし中には変色が消退するものもあり、未解明な点が残されたままであった。我々はこの点を解明すべく色差計や歯髄血流計などを用い研究を行ない、その結果、外傷歯による変色には歯髄壊死の結果発症したものと歯髄充血に由来する変色とがあることが認められた。しかし、色差計では変色が起きてからさらに色を継続的に診査した上でないと診断できないことや、歯髄血流診断では対象者の安静がないと計測できないなどいくつかの問題点があり、必ずしも臨床診断に用いるには不十分な点も残されていた。そこで、これらの問題点を解決するために、非接触、非侵襲での生態計測に用いられているサーモグラフィを応用し研究を行った。 サーモグラフィは医科分野において古くから外表面からの炎症性熱変化を捉えるのに用いられており、近年の精度の向上に伴い外表面のみならず内部組織の反応に至るまで捉えられるようになってきた。しかし歯科分野においては口腔内という特殊環境のため輻射熱の影響を大きく受けるため、口腔外からの炎症性変化に用いられたのみであった。 外傷歯はその殆どが上顎切歯部の受傷であることから口腔内の輻射熱からの影響を排除しやすい。そこで口腔内にも適用できるように輻射熱を排除するように工夫した上で外傷歯の温度変化についての検討を行った。その結果、1、基礎的研究では過去の報告と同様の傾向を示した。 2、受傷直後の外傷歯では健全歯と比較し、温度変化に大きな相違は認められなかった。 3、歯髄壊死歯、歯髄充血歯を起こしたものではともに健全歯と比較して有意な差がなかった。 4、冷水負荷試験では歯髄充血歯では健全歯に近い回復曲線を示したが、歯髄壊死歯では回復曲線は遅れる傾向が認められた。
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