ラット下顎骨延長モデルを用いた実験の結果から、延長側下顎頭軟骨全体にPTHrPの過剰発現と、それに伴う同軟骨下海綿骨量の減少がみられた。さらに、軟骨内PTHrPは延長側下顎頭上方部で過剰発現し、同軟骨直下海綿骨量はその2週間後に減少、その後過剰発現が継続した。この実験結果から、関節窩に接しているラット下顎頭上部が延長時にStressを受け、そのreactionが成長に伴いreleaseされたものと考えられた。これは、PTHrPがmechanical response elementである可能性も示唆されたものと考えられる。今後、更にmechanical loadingの大きさ/方向と、PTHrPを含めたmechanical response elementの発現の関連を解明していくことにより、下顎骨を含めた頭蓋顎顔面成長の予測なども可能となるであろう。 さらに、臨床症例の解析結果からは、それぞれの症例における関節部の力学環境を把握した上で延長の術式や荷重方向を決定することの重要性が示されたとともに、生体力学シミュレーションによって咬合時に顎骨に発生する力学エネルギー(相当応力)の分布や下顎頭における反力ベクトルを表示するシステムの臨床現場への導入が不可欠であることが判明した。この力学エネルギーの分布は、顎骨の骨密度の分布と非常に近似しており、顎顔面構造の形成にも深く関与しているため、延長術術後の咀嚼機能と咀嚼器官の成長を考慮した治療計画の立案のための重要な指標になるものと考えられた。
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