一般的に、歯周疾患の進行に伴い、歯肉からの出血傾向が強くなると言われている。しかし、我々らは、「唾液潜血試験紙法」により、唾液中潜血反応の半定量化を行い歯周疾患の有病状況との関連性を調べたところ、喫煙群では歯周病の進行と潜血反応が大きくなる傾向が認められなかった。すなわち、喫煙者の歯周炎では、一般に考えられている歯周疾患の進行と異なり、炎症の進行に伴って必ずしも歯肉からの出血が増加しないと思われる。 始めに、肉眼的な比色を行う「唾液潜血試験紙法」に比べ、ヒト血液に対して特異的に反応しかつ定量性に優れており、便潜血反応試験用に近年開発されたイムノクロマト法の唾液での実用性を検討し、可能性が示唆された。そこで、これを用い、唾液中の潜血濃度を測定した。また、喫煙からの影響を考える際には、1日あたりの喫煙本数を指標にすることが多かったが、今回はあわせて、喫煙曝露量を唾液中コチニン濃度で評価した。以上より、間接的に歯周組織の微小循環に対する喫煙の影響を調査し、喫煙者と非喫煙者間で歯周炎の病態の相違を明らかにするために、成人男性204名を対象とし検討を加えた。 その結果、非喫煙群では歯周疾患の悪化に伴い唾液中の潜血濃度が増加する傾向にあった。しかし、歯周炎に進行した喫煙群ではむしろ潜血濃度低いものが増える傾向にあった。また、唾液中のコチニン濃度により喫煙曝露量を評価して、喫煙量と歯周疾患有病状況を比較検討したところ、喫煙が歯周疾患に有意な影響を及ぼすことが示された。さらに、喫煙群の歯周疾患重症のものでは唾液中コチニン濃度が高いほど潜血濃度が低下する傾向が認められた。したがって、歯周組織局所の血液循環に喫煙の影響を強く受けたものが、歯周疾患をより進行させている可能性が示唆された。
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