研究概要 |
咬合性外傷を受けた歯根膜では、貧血状態により一時的に酸素供給が低下し、血管新生に続いて骨吸収が生じると考えられている。これまでに、培養した歯根膜細胞や骨芽細胞にメカニカルストレスを加えると骨吸収性因子の産生亢進が起こることは報告されているが、局所微小循環障害に起因する酸素濃度の変動が歯根膜細胞に及ぼす影響については検討されていない。本研究では低酸素状態とそれに引き続く再酸素化が培養歯根膜細胞に及ぼす影響を明らかにするために、骨吸収性因子の遺伝子発現と産生量の変化を検討した。まず、歯根膜細胞を低酸素状態で培養した群(Hypoxia群)と通常の条件で培養した群(Normoxia群)に分けた。Hypoxia群の培養は低酸素インキュベーターを使用して1%O_2,5%CO_2,37℃の条件で行い、Normoxia群の培養と低酸素状態からの再酸素化は20%O_2,5%CO_2,37℃の条件で行った。骨吸収性因子の定量するために、各実験群より得られた培養上清中のVEGF、IL-6、IL-1β、PGE_2、TNF-αをELISA法により定量した。AGPC法により抽出したTotal RNAからcDNAを合成し、VEGF、IL-6、IL-1β、COX-2およびTNF-αに対するプライマーを用いてmRNA発現を検出した。培養24時間後および48時間後のVEGFおよびIL-6産生量はNormoxia群に比較してHypoxia群では有意な増加(p<0.01)を示し、Hypoxia群におけるVEGFおよびIL-6のmRNAの強い発現も検出された。Hypoxia群ではCOX-2 mRNA発現を検出した。また低酸素培養後再酸素化し、酸素濃度を20%に回復させた場合6〜9時間まで時間依存的にVEGF, IL-6およびIL-1βの産生亢進を認め、各時点での産生量はHypoxia群に比較して有意な増加を示した(p<0.01)。再酸素化後4〜6時間でCOX-2 mRNAの発現が検出され、6時間後に上清中のPGE_2は増加を示した。一方、TNF-αは全実験群で検出限界以下であった。低酸素状態で培養した歯根膜細胞から破骨細胞前駆細胞の分化・活性化に関与するVEGF、IL-6、IL-1βのmRNA発現とタンパク合成が促進されるが、再酸素化によりさらに産生が亢進することが明らかになった。このことから過度の咬合力を受けて循環障害に陥った歯根膜では酸素供給の低下に伴い、破骨細胞の分化誘導と血管新生を促進する因子が産生され、その結果周囲の歯槽骨の代謝に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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