研究概要 |
ベンザインは、平面6員環環内に2つの2重結合と1つの3重結合を持つ特異な構造を有し、3重結合部分がその構造的特徴から通常のπ結合とは異なる性質を示すことが古くより知られてきた。一方、ベンザインへの置換基の導入は、3重結合部分の軌道の非対称な広がりをもたらすことから合成化学的・理論化学的に興味がもたれてきたものの、置換基を有するベンザインの発生法が確立されておらず、系統的な研究は現在でも大きく後れをとっている。そこで、本研究では、化学選択的有機金属試薬として近年我々がデザイン・開発を行っている亜鉛アート錯体を種々の置換基を持つ非対称ベンザイン合成に適応すべく条件検討を行った。 亜鉛アート錯体を用いて、様々な官能基共存下効率的にベンザインを合成する方法ならびに芳香環上の片側(1、2,3位)にのみ官能基を導入する方法を開拓した^<4)>。この過程で、亜鉛上のアルキル配位子(Me、^tBu基)の種類が反応の本質に大きく関わることを明らかにできた。これまで、直接反応に関与しない配位子はダミー基として反応の傍観者(spectator)と捉えられてきたが、今回それら配位子も反応に積極的に関与しているという証拠を示すことができた。今後、このような配位子効果も考慮した錯体設計が必要であることを示唆している。現在、高精度量子化学計算を用いて、配位環境とベンザイン発生のメカニズムの解明を目指し検討を行っている。
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