研究概要 |
(1)ヨウ化サマリウムを利用した芳香環へのスピロ閉環反応の開発 ヨウ化サマリウムは高い還元電位を有し,優れた1電子還元剤として有機合成で広く使われているが,芳香環へのラジカル環化反応の例は限られていた.我々は最近,ヨウ化サマリウムによって発生させたケチルラジカルが芳香族メトキシ基を置換する,いわゆるイプソ置換型の新規反応をはじめて見出した(Chem. Commun. 2000,1287).このような反応は,芳香族ラジカル種が多重結合と反応する従来型の反応とは全く異なった閉環反応である.また反応系内にHMPAを添加すると閉環様式が大きく変わることを見いだし,本反応条件を置換様式の異なる芳香族化合物に応用し,新規スピロ閉環反応の開発に成功した. (2)パラジウムの新しい反応性を利用した軸不斉アミノアレン類の合成 アミノアレンはプロテアーゼ阻害剤をはじめとするペプチドリード医薬品の鍵中間体として有用であり,アミノアレン自身が降圧剤としての活性を有する例も報告されている.我々はアミノアレンの簡便な合成法の開発を目的として,中心炭素に脱離基を有するπ-アリルパラジウム錯体を経由したアレンの合成を検討している.これまでに,α,β,またはγ位にアミノ基を有するアレンの合成に成功し,他の方法では合成困難なアミノアレンの合成法を確立することに成功した.また,アミノ基を持たない種々のアルキル,アリール,またはビスアレンの合成にも成功し,本アレン合成法が一般性の高い有用な反応であることを示した.さらに,脱離基となるメシロキシ基の中心不斉がアレンの軸不斉に影響を与えないことを見出し,反応機構上極めて興味深い知見を得ることができた.(今後,合成したアミノアレンを用いて生物活性物質の合成を行うとともに,不斉配位子を用いた軸不斉アレンの触媒的合成への展開を目指す.)
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