研究概要 |
(1)ヨウ化サマリウムを利用した芳香環へのスピロ閉環反応の開発 ヨウ化サマリウムは高い還元電位を有し,優れた一電子還元剤として有機合成で広く使われているが,芳香環へのラジカル環化反応は限られていた.我々は最近,ヨウ化サマリウムによって発生させたケチルラジカルが芳香族メトキシ基を置換する,いわゆるイプソ置換型の閉環反応をはじめて見いだした(Chem. Commun. 2000,1287).また,反応系内にHMPAを添加すると閉環様式が大きく変わることを見いだし,本反応条件を置換様式の異なる芳香族化合物に応用し,新規スピロ環化反応の開発に成功した(Chem. Commun.2002,316). (2)パラジウム触媒を用いるスルフィニル亜鉛化反応の開発 スルフィニルアニオンは,様々なスルフィニル化合物を合成するための前駆体として極めて有用である.報告者は,1-アルキニルスルホキシドをパラジウム触媒存在下,ジエチル亜鉛と処理すると,スルフェン酸亜鉛が発生することをはじめて見いだした(Org. Lett. 2001,3,3627).本法は,従来の強塩基を用いる手法よりもはるかに穏やかな条件でスルフィニルアニオンを発生できるため,本手法により種々の官能基存在下での反応が可能となった(Tetrahedron : Asymmetry 2002,13,1961). (3)パラジウムの新しい反応性を利用した軸不斉アミノアレン類の合成 アミノアレンは降圧剤,及びプロテアーゼ阻害剤をはじめとするペプチドリード医薬品の鍵中間体として有用である.報告者はアミノアレンの簡便なルートの確立を目的として,新規アレン合成法の開発研究を行った.その結果,α, β,またはγ位にアミノ基を有するアレンの合成に成功し,他の方法では合成困難なアミノアレンの合成法を確立することに成功した.また,アミノ基を持たない種々のアルキル,アリール,またはビスアレンの合成にも成功し,本アレン合成法が一般性の高い有用な反応であることを示した.さらに,立体化学的知見から反応がπ-アリルパラジウム中間体を経由していることを明らかにした(J. Org. Chem. 2002,67,1359).
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