アルコール類の酵素触媒アシル化による不斉四級炭素の構築法は、高選択性、反応操作の安全性、簡便性などの利点から、有用な環境調和型合成手法になると考えられるが、成功例は限られている。それは、ピニルエステルをアシルドナーとする従来法の問題点、すなわち、酵素の失活、アシル基転位による生成物のラセミ化、アシル基部分の構造修飾が困難なこと、などによる。我々は最近、1-エトキシビニルエステル(EVE)がこれらの問題点を解決する優れたアシルドナーになることを明らかにし、対称性ジオール類の非対称化やドミノ型不斉合成反応を初めて見出した。本研究では、これらの成果を発展させて種々の触媒的不斉四級炭素構築法の開発研究を行い、創薬リード天然化合物の効率的な不斉合成に応用することを目的とした。以下に研究成果の概要を述べる。 1.最近開発した、リパーゼ触媒光学分割と分子内Diels-Alder反応のドミノ型不斉合成法をα-ヒドロキシニトロンに応用し、分子内双極子付加環化反応を伴うドミノ反応が進行して一挙に含窒素多環式化合物(92-97% ee)が得られることを見出した。更に、未反応アルコールの部分的なラセミ化による動的光学分割を伴うドミノ反応に初めて成功し、収率を向上させることができた。本法により、天然のピロリジジンアルカロイドが短工程で不斉全合成できた。 2.昨年度開発した1-エトキシピニル2-フロアートを用いる3-ビス(ヒドロキシメチル)オキシインドール類の酵素触媒不斉非対称化法の汎用性を検討した。その結果、1位N上に種々の保護基を有する基質から不斉四級炭素を有する様々なオキシインドール類(86-98% ee)を高収率で合成できた。本法は、種々の生物活性を示すインドールアルカロイドの合成鍵中間体を簡便で高効率で合成できる新手法となった。
|