有用有機化合物の効率的、かつ選択的構築においては立体化学を含めその炭素骨格をいかに制御して造るかが大きな課題となる。本研究はこのテーマに取り組み、炭素一炭素結合形成反応を伴う多成分複合系の連続反応の構築、すなわち新規不斉タンデム型反応系の開発を目的とし遂行したもので、その研究結果として具体的には下記の成果と多くの有用な知見を得た。 炭素-炭素結合形成反応としてよく知られたWitting型反応とMichael反応の組み合わせによる独自で新規なタンデム型の反応系を設計構築した。まず不斉誘起子として2種のビナフチル系誘導体の機能を検討し、その結果を基にタンデム反応系に適用可能な基質合成を行なった。次いで、合成基質につき予試験的に不斉Michael反応を検討したところ100%に近い立体(エナンチオ)選択性で高収率で反応が進行することが確認された。最初の炭素-炭素結合形成における高い不斉誘導が観察されたので、in situで生成する炭素陰イオンとカルボニル基質との連続反応による一フラスコ内のタンデム反応へと展開した。ベンズアルデヒドとの反応における100%に近いエナンチオ選択性を確認後、二重不斉誘導可能なカルボニル基質との不斉Michael-HWE (Horner-Wasdworth-Emmons)反応を検討した。不斉オレフィン化において有効とされる3種のアプローチ、エナンチオトピツクなカルボニル区別反応、面選択による軸性不斉を持つ光学活性オレフィンへの変換、ラセミックなカルボニル化合物の速度論的分割のいずれにおいても高い化学収率と多重不斉誘導における高いジアステレオ選択性が得られた。さらに、本反応系を動的速度論分割に適用したところ、この系では世界で初めて高い選択性と化学収率の実現に成功した。
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