研究概要 |
前周期遷移金属錯体、特に有機ジルコノセン錯体は有機合成における反応試薬としては一般に認知度が低く、精密有機合成にはあまり活用されてこなかった.しかし、近年我々の研究も含めて多数のジルコノセン錯体を用いる特色ある新規反応が開発されてきている。本研究はアシルジルコノセン錯体、アルケニルジルコノセン錯体を求核試薬とする遷移金属触媒存在下、炭素-炭素結合形成反応について検討を行ったものである。以下に平成14年度の研究成果を記述する. 1,アシルジルコノセン錯体を用いるビシクロ環化合物の生成 我々が以前に報告したα,β-不飽和ケトンへのアシルジルコノセン錯体の共役付加反応に関する反応機構に基づき、アシルジルコノセン錯体をPd-触媒存在下ω-位に不飽和結合を有するα,β-不飽和ケトン誘導体と反応させると、ビシクロ[3.3.0]オクタン誘導体が立体選択的に得られることを明らかにした。本反応にはα,β-不飽和ケトン官能基は必須であり、我々の作業仮説に基づく反応機構の正当性が証明された。さらに、種々ヘテロ原子を含むビシクロ[3.3.0]オクタン誘導体の合成にも成功し、その有用性を明らかにした。 2,アルケニルジルコノセン錯体を用いるイミン誘導体への触媒的アルケニル化反応 アルケニルジルコノセン錯体を用いるイミンへのGrignard型のアルケニル基の付加反応がRh(I)触媒を用い、非常に効率良く生起することを見いだした。反応性の非常に低いアルケニルジルコノセン錯体において本反応はイミンへの初めての触媒型の付加反応が可能であることを明らかにした。これまでに報告されてきている同型の付加反応は化学量論量の添加物を必要であったが、今回の発見によりアルケニルジルコノセン錯体を用いるイミンへのエナンチオ選択的な触媒反応の開発の可能性が示唆される。ジルコノセン錯体の有機合成試薬としての重要性、多様性をさらに認識させる反応結果を本年度に見い出すことが出来た。
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