研究概要 |
ビピンナチンJは1998年に八方サンゴPseudopterogorgia bipinnataより単離されたフラノセンブランジテルペンであり、フランの2,5-位を橋頭位とする14員環状化合物である。ビピンナチン類は各種のガン細胞に対して強い細胞毒性を有する。ビピンナチンJやロフォトキシン等のフラノセンブランは新規な環状2,5-二置換フラン構造を有すること並びに顕著な生理作用を示すことから、その合成法の確立と生理作用との構造活性相関に興味が持たれる。ビピンナチンJの合成においては、ビニルフラン,γ-ブテノリド並びにanti-ホモアリルアルコール単位の選択的構築が課題となる。前年度の知見を基に環状フルフリルエーテルのWittig転位を鍵反応するビピンナチンJのキラル合成を検討した。本研究では、Stilleクロスカップリングを用いることで(Z)型のビニルフラン部分の選択的な構築法及びγ-ブテノリドを有するブロモアルケンのキラル合成法を確立した。すなわち、(R)-2,3-シクロヘキシリデングリセルアルデヒドより調製した(S, Z)-1-ブロモ-2-メチル-4,5-O-(p-メトキシベンジリデンジオキシ)-1-ペンテンと2-t-ブチルジメチルシロキシメチル-3-メチル-5-トリブチルスタニルフランとのStilleクロスカップリングにより、望む立体化学を有する(S, Z)-1-(5-t-ブチルジメチルシロキシメチル-4-メチル-2-フリル)-2-メチル-4,5-O-(p-メトキシベンジリデンジオキシ)-1-ペンテンを合成した。一方、重要中間体である環状フルフリルエーテルのフランメタノール以外のブテノリドを含む炭素鎖に相当する部分のフラグメント合成法も確立した。すなわち、光学活性源として(S)-4,5-シクロヘキシリデンジオキシ-2-ペンタノンを用い(S,1E,9E)-1-ブロモ-11-t-ブチルジフェニルシロキシ-2,10-ジメチルウンデカ-1,5,6,9-テトラエン-4-オールを調製し、これをRu触媒下で一酸化炭素の挿入反応に付すことにより(S,1E,5Z,9E)-1-ブロモ-11-t-ブチルジフェニルシロキシ-4-ヒドロキシ-2,10-ジメチルウンデカ-1,5,9-トリエン-6-カルボン酸ラクトンに誘導することに成功した。 以上のように、Stilleクロスカップリングを用いることでビピンナチンJのビニルフラン部分の合成法並びにアレニルアルコールへのRu触媒を用いる一酸化炭素の挿入反応によりγ-ブテノリドの立体選択的構築法を確立することができた。
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