位置選択的同位元素置換と紫外共鳴ラマン差スペクトルを組み合わせた"Isotope-edited Raman spectroscopy"により、希薄水溶液中において、DNA中の選択した1塩基のグアニンの微細な構造変化を検出した。[8-D]グアニンでラベルしたオリゴヌクレオチドとラベルしていないオリゴヌクレオチドの251nm励起紫外共鳴ラマン(UVRR)スペクトルを測定した。未置換体とラベル体の差スペクトルを計算すると、ラベル化した位置の塩基のラマンシグナルは現れるが、他の部分は相殺する。したがって、オリゴヌクレオチド中の選択したグアニンのラマンシグナルが抽出できる。 Isotope-edited Raman spectroscopyからグアニン塩基の構造解析を行うための基礎データとして、同位元素置換による振動数変化を元にしたC8重水素化グアニン環の振動モードを調べた。ラマンバンドの水素結合感受性を、水素結合能の異なる各種溶媒に溶解した時のラマンスペクトルの比較により調べた。この結果、いくつかのラマンバンドから、グアニン環のN1-HとC2-NH_2、C6=O、N7それぞれの水素結合部位の状態を調べられることが解った。 オリゴヌクレオチド22merの2本鎖DNAを用いて、Isotope-edited Raman spectroscopyの有用性を確認した。2本鎖DNAのグアニン塩基と直接水素結合することが知られているcAMP受容タンパク質(CRP)の存在下、非存在下で、UVRRスペクトルを測定した。その結果、CRPはグアニンのC6=Oと水素結合し、N7とは水素結合しないことが解った。Isotope-edited Raman spectroscopyは、生理的条件下、核酸-薬物系における特定のグアニン残基の構造情報が得られる優れた方法と考えられる。
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