生理活性キノンの電荷分離に対する水素結合の役割と機能を明らかにするため、前年度得られた実験結果を基に、水素結合によって仲介される効率的な電子移動と水素結合の様式及び強さの関係を明らかにし、水素結合が仲介する電子移動の反応スキームを構築した。分光学的測定と分子軌道計算から、電極上に固定されたキノンから水素供与体であるフェノール類への見かけ上アップヒルな電子移動は、キノンアニオンラジカルとフェノール類との水素結合錯体の正側にシフトした還元電位で起こることがわかった。そして、フェノール側への電荷分離によってキノンラジカルとフェノールラジカル間の水素結合が解列し、キノンアニオンラジカルが中性フェノールと再び水素結合錯体を生成する安定化エネルギーによってアップヒル電子移動のエネルギー収支が行われていることが明らかとなった。溶媒の再配列の重要性を指摘したMarcus理論と同様の効果が、電極上のキノンアニオンラジカルと基質であるフェノール間の強い水素結合によって達成され、水素結合が効率的な電子移動に重要な働きをしていると考えられる。 また、水素結合サイトが隣接したo-キノン類(OQ)を用い、その還元体の水素結合錯体の構造が錯体形成段階で制限されるような相互作用系の還元電位制御機能について明らかにした。OQとOQ^-はCH_3CN中でMeOH及びジメチル尿素(DMU)と1:1の水素結合錯体を生成するが、OQ^<2->は1:2及び1:4水素結合錯体を、DMUとは1:1及び1:2錯体を生成することを明らかとした。そして、OQ^--DMU系ではエントロピー支配的な水素結合錯体を生成し、その還元電位を制御することがわかった。 以上の結果は、電子移動反応における水素結合の役割を明らかにし、生理活性キノンが機能する電荷分離に関する水素結合の役割を明らかにしたものとして重要である。
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