生理活性キノンの電荷分離に対する水素結合の役割と機能を明らかにするため、アントラキノン(AQ)およびナフトキノン(NQ)自己組織化膜電極(SAM)を作製し、基質として水素供与性を有するp-置換フェノール類への水素結合が関与した電子移動モデル系を構築し、水素結合が電子移動に果たす役割について研究をした。 1.作成したSAM-AQ電極およびSAM-NQ電極のアニオンラジカル生成に対応する可逆一電子還元波は、置換フェノールをゲストとするとき多電子移動を示すメディエーション電流を観測した。この電流増幅は、置換基の電子吸引性の強さ(フェノールの水素供与性)と良い相関を示した。また、修飾金メッシュ電極による電解スペクトル測定より、電極上のキノンの還元電位でゲスト分子への1電子移動によってアニオンラジカルが生成することを明らかにした。 2.分子軌道計算から1の系における電子移動機構を明らかにした。キノンアニオンラジカルとフェノール類との水素結合錯体の正側にシフトした還元電位で二電子移動が起こり、そのときフェノール側への電荷分離によってキノンラジカルとフェノールラジカル間の水素結合が解列し、キノンアニオンラジカルが中性フェノールと再び水素結合錯体を生成する安定化エネルギーによってアップヒル電子移動のエネルギー収支が行われていることが明らかとなった。 3.水素結合サイトが隣接したo-キノン類(OQ)を用い、その還元体の水素結合錯体の構造が錯体形成段階で制限されるような相互作用系の還元電位制御機能を明らかにした。OQ^--ジメチル尿素(DMU)系ではエントロピー支配的な水素結合錯体を生成し、その還元電位を制御できることがわかった。 以上の結果は、電子移動反応における水素結合の役割を明らかにし、生理活性キノンが機能する電荷分離に関する水素結合の役割を明らかにしたものとして重要である。
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