研究概要 |
カチオン性リポソームを用いて脂質あるいは脂質類似成分を皮膚に効率的に送達することを目的とし、二本鎖カチオン性界面活性剤を含有するカチオン性リポソームの安定性、モデル生体膜として用いた赤血球膜との相互作用、皮膚との相互作用について研究を行った。ジメチルジパルミチルアンモニウムは不飽和脂肪酸をアシル鎖とするりん脂質の共存下で、一方、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパンは、飽和脂肪酸をアシル鎖とするりん脂質との共存下においても安定なリポソームを形成した。また、これらのリポソームはリポソームとして赤血球膜と相互作用し、凝集、融合を誘起することがわかった。次にこのようなカチオン性リポソームと生体膜との相互作用を利用して、皮膚のバリアー能を担う角質層脂質の欠損した皮膚に対する脂質補給への応用を試みた。セラミド、ジメチルジパルミチルアンモニウム、コレステロール(モル比1:1:1)より安定なリポソームが形成されることを確認するとともに、80%エタノール処理によって角質層脂質が欠損したモルモット背部摘出皮膚に対するリポソームの適用によって角質層脂質の硬さが有意に回復することを明らかにした。さらに、リポソーム添加によりサリチル酸イオンの透過性が低下する傾向が観察され、角質層脂質のバリアー能の回復が推察された。次にカチオン性リポソームを用いてレチノイン酸の皮膚移行性を改善することを試みた。レチノイン酸を膜成分とするリポソームによるモルモット背部摘出皮膚へのレチノイン酸の移行量は、二本鎖カチオン性界面活性剤、卵黄ホスファチジルコリン、レチノイン酸のモル比が2:2:1の系で、溶液として添加した場合に比べて顕著に増大した。 以上の結果より、皮膚への脂質あるいは脂質類似成分の補給にカチオン性リポソームが有用であることが示され、今後の製剤的応用の基盤を構築することができた。
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