本年度に得られた成果は次のようにまとめられる。 1.ピラゾール及びその誘導体を架橋配位子とする新規白金複核錯体を申請者の開発した合成法により調製し、NMRやIRスペクトル法などを用いて構造に関する情報を得た。 2.本複核錯体は核酸と強い配位結合を行うが、反応完結には生理的pHでは20時間以上を要る。一方、これらの複核錯体は反応直後に核酸の融解温度を上昇させ、CDスペクトルを変化させた。平衡透析法や蛍光法などにより解析した結果、これら配位結合を伴わない相互作用は静電的相互作用及びインターカレーション様の相互作用であることを認めた。 3.シスプラチン耐性がん細胞への白金の取り込み量を原子吸光法により測定した結果、本複核錯体はシスプラチンより多量に細胞内に取り込まれることを認めた。 4.本複核白金錯体と核酸オリゴマーとの相互作用に関しては、海外共同研究者グループがすでに結晶化に成功し、X線結晶構造解析法などにより解析中である。 5.以上の結果、本複核錯体が白血病細胞L1210及びそのシスプラチン耐性株に対して強い細胞毒性を発現する機序のひとつとして、核酸との配位結合のみならず静電的相互作用やインターカレーション様の相互作用が示唆された。現時点では、それらの相互作用の制がん活性への関与の程度は不明であるが、シスプラチンでは認められない相互作用であり、シスプラチン耐性がん細胞に有効である原因である可能性が考えられる。今後、本相互作用を詳細に解析することにより。新しい観点からの制がん剤の開発が期待される。
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