2001年度から2003度までの3年間に得られた成果は次のようにまとめられる。 (1)ピラゾール及びその誘導体を架橋配位子とする新規白金複核錯体を申請者の開発した合成法により調製しNMRやIRスペクトル法などを用いて構造に関する情報を得た。 (2)本複核錯体の反応機構を検討する目的で、求核剤としての塩化物イオンの存在下、HPLCやNMR法などにより反応を速度論的に解析し、酸性ではヒドロキソ架橋配位子がプロトンの攻撃を受けた後に、正方平面白金(II)錯体の配位子置換反応機構に従うことを認めた。 (3)本複核錯体は核酸と強い配位結合を行うが、反応完結には生理的pHでは20時間以上を要した。一方、本複核錯体は反応直後に核酸の融解温度を上昇させ、CDスペクトルを変化させた。平衡透析法及び蛍光法により解析した結果、これら配位結合を伴わない相互作用は静電的相互作用及びインターカレーション様相互作用に基づくことを認めた。 (4)シスプラチン耐性がん細胞への白金の取り込み量を原子吸光法により測定した結果、本複核錯体はシスプラチンより多量に細胞内に取り込まれることを認めた。 (5)以上の結果、本複核錯体が白血病細胞L1210及びそのシスプラチン耐性株に対して強い細胞毒性を発現する機序として、核酸との配位結合のみならず静電的相互作用やインターカレーション様の相互作用を経るアポトーシス誘導が示唆された。現時点では、後二者の相互作用の制がん活性への関与の程度は不明であるが、シスプラチンでは認められない相互作用であり、シスプラチン耐性がん細胞に有効である原因である可能性が考えられる。今後、本相互作用を詳細に解析することにより新しい観点からの制がん剤の開発が期待される。
|