研究概要 |
p120 RasGAPは低分子量Gタンパク質Rasに特異的に作用し,そのGTP加水分解活性を促進するエフェクター因子である.Rasを不活性化するこの酵素作用は,Rasのもつ細胞増殖や分化といった機能を制御するのに大変重要である.一方,RasGAPのN末端領域には,細胞内シグナル伝達に関与すると考えられるnSH2-SH3-cSH2領域を存在しており,この領域がアクチンの細胞骨格再構成の役割を担っていると考えている.RasGAP nSH2-SH3-cSH2領域は分子内での活性制御機構が議論され,特にマスクされたRasGAP SH2が,その結合パートナーであるp190 RhoGAPのリン酸化チロシン領域(pTyr)と相互作用する(RasGAP nSH2とRhoGAPのpTyr1105領域,RasGAP cSH2とRhoGAPのpTyr1087領域)ことで,RasGAP SH3が露出し下流因子と結合できるというモデルは興味深い.本研究では,RasGAP nSH2-SH3-cSH2領域における上記モデルの検証ならびに制御機構の詳細な解析を進めることを目的として,各種ドメイン単位で組み換え型タンパク質の調製し,各ドメイン間の結合をSPR測定により速度論的に解析した. RasGAPのnSH2-SH3-cSH2領域をもとに7種類の組み換え型タンパク質を調製した.またRhoGAPのpTyr領域は合成ペプチドを用いた.分子内の活性制御機構を解明する上で,まずRasGAP SH2とRhoGAPのPTyr領域との結合をBIAcoreを用いて速度論的に解析し,各ドメイン間における相互作用の優先性や重要性を推測した.その結果,nSH2-pTyr1105領域の方がcSH2-pTyr1087領域より約30倍強く結合していることがわかった.nSH2-pTyr1087領域およびcSH2-pTyr1105領域という組み合わせで結合を調べてみると,この組み合わせでも結合していることが示され,この場合もnSH2が関与したnSH2-pTyr1087領域の方がcSH2-pTyr1105領域よりも約40倍結合が強かった.この結果から複数の組み合わせで結合することにより,シグナル伝達を制御していることが示唆された.同様な方法でRasGAP nSH2-SH3,SH3-cSH2とRhoGAPペプチドを使い,Kdを測定してみたところ同程度の結合であり,RasGAP SH3の存在がp190 RhoGAPとの結合に影響は与えていないことがわかった.さらに,RasGAP nSH2-SH3-cSH2とpTyr1105領域およびpTyr1087領域2個ヶ所を含むRhoGAPペプチドとの結合は非常に強く,2つの結合部位による相乗的な効果が考えられた.
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