研究概要 |
V-ATPaseや同じイオン輸送性の回転モーター分子、F-ATPase、などのイオン通路を形成するサブユニットには、共通してその膜貫通部分にアルギニン残基が保存され、イオン輸送に決定的な働きを担うといわれている。NtpI遺伝子の機能相補系を用いた部位特異的変異導入の結果、本酵素ではNtpIArg573が唯一膜貫通部分に存在するアルギニン残基であることがわかった。Arg573Lys変異体では、部分的ではあるがNa^+輸送活性が残存した。本酵素のユニークな特徴として、そのATP加水分解活性のNa^+依存性に負の共同性が見られることである。この性質は回転ローターの回転に関わる特徴と推定されており、Arg573Lysの部分欠損株ではこのNa^+依存性の負の共同性が著しく低下した。Arg573が、ロータの回転に密接に関わる残基であることが示された。さらに、Y571,L574,L577、E634がイオン輸送活性に必須であることを明らかにした。H626は必須ではないが、イオン輸送活性及びATP加水分解活性に極めて重要であることもわかった。これら5つの残基は細菌型V-ATPaseのNtpIサブユニットに共通に保存されているものであった。 一方、システイン置換変異を利用した化学架橋剤実験の結果より、Arg573が存在するNtpIの第6膜貫通部分の膜表面部分からC末端の親水性部分に、これらの5つの残基が分布していることも示唆された。E634,H626の膜貫通部分における局在性に関しては、F-ATP合成酵素とわずかながら相違があるものの、V-ATPase及びF-ATP合成酵素に共通するArg573周辺の重要なアミノ酸残基が同定された。
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