研究概要 |
本研究遂行の主たる成果として,中枢アミノ酸シグナリング機構について以下の2つの新しい発見があった。 「光学異性体を区別するグルタミン酸輸送体(GluTs)の小脳特異的発現」:中枢神経系の重要な興奮性伝達物質であるグルタミン酸の輸送体機能研究には,基質としてD-アスパラギン酸(AsP)が古くから使用されている理由は,D-Aspが代謝的に安定であるとともに,既知のGluTs(GLAST, GLT-1,EAAC1,EAAT4,EAAT5)がL-とD-Aspを区別しないからである。脳内各部位におけるGluTsの多様性を追究する目的で,オートラジオグラフィー法を用いて検討したところ,小脳にはL-AspとD-Aspを識別するという新しい性質を有するGluTが発現していることを強く示唆する結果が得られた。一方,抗GLAST抗体を一次抗体とするWestern blot法では,小脳標品において他の脳内部位標品よりも大きな分子量の位置に抗体陽性蛋白質が検出され,この小脳特異的なGLAST類似の新しいタイプのGluTがL-とD-Aspを識別している可能性がある。 「中枢に存在する新しいL-Ser輸送体」:L-Serには抑制性シナプス後電位誘発作用が報告されているが,L-Serの神経活性アミノ酸としての作用出現機構については,ほとんど解明されていない。高親和性取り込み活性について,L-Ser取り込み活性の約半分はNa依存性がないこと,2つ以上の親和力の異なる取り込み系が存在すること,また各種アミノ酸による阻害実験からこれまで知られている各種アミノ酸輸送体とは薬理学的特性が異なっていること等が明らかとなった。 これらおよびその他の本研究結果から,従来から知られている神経伝達アミノ酸以外にD-AspおよびL-Serが神経伝達機能を果たしている可能性が高いことが示唆される。
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