本研究は、(1)EP3を発現する視索前野ニューロンに共通して見られる基本的な性質を同定し、発熱刺激時にEP3受容体のすぐ下流で働く遺伝子群を検索すること、(2)4種類存在するPGE受容体サブタイプのなかで、EP3による発熱を標的とした創薬を考える基礎知見として、さらなる各サブタイプとPGE2作用の対応化を図ること、(3)EP3を含むPGE受容体サブタイプの病態生理的意義を明らかにすること、を目的として発足した。 その結果、(1)発熱に関与するEP3ニューロンの性質と刺激による遺伝子発現変化解析し、PGE2の脳室内投与の有り無しで、多くの遺伝子群の発現がPGE2投与群において低下傾向を示し、これがPGE2による発熱入力の本態である可能性が示唆された。(2)PGE受容体の遺伝子発現に関する解析を行い、PGE受容体が、マクロファージや卵巣、皮膚組織、大腸癌上皮細胞などで発現誘導を受けることを見出した。(3)各受容体KOマウスを用いて、PGの病態生理機能の評価を行い、(1)炎症性疼痛にはEP3受容体とIP受容体が痛覚修飾に関与するPG受容体であること、(2)Apc(delta)716マウスの大腸ポリープ形成にはPGE2ならびにEP2受容体が関与すること、(3)血小板凝集には、内因性PGE2が血小板に発現するEP3受容体に作用して、トロンボキサン刺激による凝集効率を高めていること、(4)デキストラン硫酸投与による大腸炎モデルを用いて、炎症性大腸疾患におけるPGE2の役割を、EP4受容体欠損マウスならびにEP4受容体選択的アゴニスト、EP4受容体選択的アンタゴニストを用いて多面的に解析した結果、PGE2はEP4受容体を介して、上皮組織の再生亢進作用、白血球およびリンパ球の活性化抑制作用により炎症を抑制する活性を示すこと、を明らかにした。
|