研究概要 |
最近、新興・再興感染症が世界的問題として取り上げられ、とりわけ再興感染症の第一に挙げられるマラリアが注目を集めている。マラリアの感染者は世界に2億7千万人以上おり、死亡者数は100万人以上、で特に発展途上国ではこの疾患が主な死亡原因の一つとなっている。現在のところ、有効なワクチンはなく、マラリア原虫は各種マラリア治療薬に耐性を獲得しつつある。マラリアの制圧を考えるとき薬剤耐性を克服できる薬剤の開発は第一義的に重要であり、マラリアの制圧は1998年バーミンガムと2000年九州・沖縄でのG8サミットの声明に取り上げられ、2010年までにマラリアによる死亡率を激減させること(これをRoll Back Malariaイニシアチブという)が決定され、加えて先進国が対策の責任を持つことになり、世界的な重要性を持った課題である。私は薬剤耐性熱帯熱マラリア原虫に有効な新規抗マラリア薬を開発し、学術研究の面で国際貢献すると同時に、作用機序の明らかな抗マラリア薬をマラリア流行地に提供することを最終目標として研究を行った。 本研究で我々は簡単な構造で、安価で合成しやすい特徴を有する環状過酸化物の合成研究で、1,2,4,5-テトラオキサシクロアルカン類の中から完治効果と低毒性を合わせ持つ化合物を選抜する試みで300種類の環状過酸化誘導体を合成し、抗マラリ活性を測定した。構造-活性の結果より、ペルオキシドを有する8員環と12員環のシクロアルカン構造を新規抗マラリア薬の母核化合物に決定した。これら化合物の抗マラリア作用は、マラリア原虫のヘモグロビン代謝、特に、マラリア原虫内のグロビンからアミノ酸に分解するカスケードを阻害した。マラリア原虫内のグロビンの含有量をコントロールと比較することで、阻害効果を測定した。その結果、グロビンの含有量はマラリア原虫の成長につれて多くなり、後期栄養体期の原虫で一番多かった。また、電子顕微鏡を用いた解析結果からも同様の結果が得られた。この結果はグロビンの分解に関与する酵素をこれら環状過酸化化合物が阻害する事を示唆する。
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