高コレステロール食で10-12週間飼育したウサギの血清リゾホスファチジルコリン(LPC)濃度はコレステロール負荷に伴い徐々に増加し正常ウサギの値の5-6倍となった。37℃で24時間保温したウサギ血清のリゾホスファチジン酸(LPA)量を比較すると、高コレステロール食での飼育期間が長くなるにつれ、LPA産生量が増加していた。興味深いことには、リゾホスホリパーゼDの基質である血清LPCの主要な5分子種がすべて高コレステロール負荷に伴い上昇するにもかかわらず、蓄積したLPAの大部分はリノレオイル(18:2)分子種であった。総LPC量で補正した血清リゾホスホリパーゼD活性と高コレステロール負荷との相関性は低いので、この動脈硬化動物モデルではリゾホスホリパーゼDの基質18:2-LPCの大幅増加により18:2-LPA産生が増大したものと思われる。また、LPAが単球系のTHP-1細胞を活性化し臍帯静脈内皮細胞への接着を促進することも明らかとなった。これらの結果より、高脂血症動物の循環血液中では起炎性および細胞増殖性のLPAの産生が高まり動脈硬化病巣の進展に関与していることが示唆された。申請者はリゾホスホリパーゼDの精製のための簡便な検定法を構築し、約950mlのヒト血漿から本新規酵素を精製した。そのトリプシン分解物をLC/MS/MSで解析したところ、本酵素は、エクトヌクレオチドホスホジエスエテラーゼの1種autotaxinと同定された。この知見から、循環血液に分泌されるリゾホスホリパーゼDがリゾリン脂質やヌクレオチドを分解することにより、多彩な生理活性を発現していることが強く示唆された。
|