研究概要 |
中枢におけるヒスタミンH1受容体の役割を明らかにする目的で,まずヒトH1受容体に様々な変異を導入し培養細胞に発現させ,H1受容体シグナル伝達に対する影響を調べた.その結果,H1受容体のアミノ酸残基Thr-140,Thr-142,Ser-396,Ser-398,Thr-478をすべてalanineに置換した変異受容体は,ヒスタミンに対する応答は正常であるが,脱感作(down-regulation)が完全に阻害されることがわかった.もし生体内の正常H1受容体が上記の変異H1受容体に入れ換わると,H1受容体脱感作がおこらないためにヒスタミンに対するH1受容体の反応が過剰に発現すると考えられる.そこでH1受容体の反応が過剰に現れるときに,中枢機能にどのような影響があるかを調べ,これにより中枢におけるH1受容体の機能を明らかにしようと考えた.このために,上記の改変H1受容体を正常H1受容体と置き換えた遺伝子改変マウスを作成しその行動を調べる実験を計画した.マウスH1受容体遺伝子を含む約13kbの断片をpBluescriptベクターに導入し,PCRミュータジェネシス法によりH1受容体遺伝子に目的の5カ所の変異を導入した.さらにポジティブ選別用遺伝子(PGKNeopA),ネガティブ選別用遺伝子(pMC1DT-ApA)をこのベクターの適切な位置に挿入しターゲティングベクターを作製した.このターゲティングベクターをマウスES細胞にエレクトロポレーション法により導入し,ES細胞のコロニーを単離した.現在,遺伝子の相同組換えが生じたクローンを同定中である.組換え体が得られれば,このES細胞をマウス胚に注入し遺伝子改変マウスを作製する予定である.この遺伝子改変マウスでは,H1受容体レベルが通常より上昇することから,中枢におけるH1受容体を介した反応が過剰になると考えられ,H1受容体の中枢での役割の解明に有用であると考えられる.
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