本研究は、ウロン酸回路の新しい役割を明らかにするため、この代謝系の酵素の構造、性状、分布、誘導を検討し、得られた知見を以下に要約する。 1.酵素化学的研究(1)ウロン酸回路の酸化還元酵素のcDNA単離、性状解析および組織分布:ヒト、モルモット、ハムスター、ラットおよびマウスのL-キシルロース還元酵素(XR)のcDNAを単離し、各リコンビナント酵素を大腸菌の系で発現・精製し、性状を明らかにした。本酵素はSDR(short-chain dehydrogenase/reductase)ファミリーに属し、従来別種の酵素と考えられていたジアセチル還元酵素およびヒト副睾丸タンパクP34Hと同一であり、ブチル酸が特異的な拮抗阻害剤であることを認めた。本酵素が生体成分のイサチンも還元することを認めたが、ヒト肝と腎ではイサチン還元の主酵素とは異なった。本酵素は上記の動物組織に広く分布し、肝臓と腎臓に高発現し、ラットとマウスの腎では尿細管上皮細胞の刷子縁膜に局在した。なお、グロン酸脱水素酵素とキシリトール脱水素酵素のcDNA単離に至っていないので、両酵素の検討は次年度に行う。 (2)XRの構造・機能相関研究:ヒトXRの結晶を得て、X線解析により高次構造を決定中である。部位特異的変異法により、触媒反応および基質結合に関わる8残基を同定した。 2.培養細胞を用いた高グルコース、薬物および浸透圧による酵素誘導の検討 ヒト由来細胞を用いて、高グルコース、高浸透圧、薬物投与による、XRのmRNAの発現変動を調べたが、有意な変化が認められなかった。 3.トランスジェニック細胞とマウスおよびそのノックアウトモデルの検定 XRを過剰発現するウシ腎尿細管細胞、XR遺伝子のトランスジェニックマウスを作製し、本酵素活性・タンパクおよび生体成分(イサチンとグルコース)の代謝が著しく亢進することを確認した。ノックアウトマウスについては、現在、その生化学的変化を確認中である。
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