本研究は、ウロン酸回路の新しい役割を明らかにするため、この代謝系の酵素の構造、性状、分布、誘導を検討し、得られた知見を以下に要約する。 1.ヒトのL-キシルロース還元酵素(XR)の構造・機能相関研究:(1)ヒトXRのX線結晶構造解析により、新規な3次構造を明らかにした。(2)動物のXRが低温失活するのに対してヒトXRのみが低温で安定である構造的要因は、グルタミン酸238とトリプトファン242によるサブユニット会合に重要なの塩結合の安定化であることが判明した。(3)ヒトXRが他の動物の酵素より基質に対して低いKm値を示す構造的要因の1つはサブユニット内のジスルフィッド結合が原因であることが明らかになった。 2.特異的かつ強力なXR阻害剤の創製:ヒトXRと阻害剤の複合体の結晶構造は解析中である。結晶構造に基づき、コンピュターモデリングにより、候補阻害剤の誘導体を設計した。しかし、現在、まだ細胞透過性も良い阻害剤は見出せていない。 3.糖尿病合併症の新発症機構:XR遺伝子過剰発現マウスはノックアウトマウスに比べて、繁殖能が低下していることが判明し、その原因を究明中であり、高血糖における検討に至らなかった。 4.キシリトール脱水素酵素とグロン酸脱水素酵素の構造および性状解析:モルモットのキシリトール脱水素酵素はソルビトール脱水素酵素と同定された。モルモットとウサギのグロン酸脱水素酵素の一次構造は新規であるが、3-hydroxyacyl CoA dehydrogenaseファミリーに属することが示唆された。 5.薬物代謝における役割:XRは種々の薬物のケトンや異物のジカルボニル化合物を還元した。キシリトール脱水素酵素はいくつかの芳香族アルコール類を酸化し、グロン酸脱水素酵素も糖以外の化合物のいくつかを基質にした。
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