マウスジヒドロジオール脱水素酵素(mDD)の発生・成長過程における発現変動を明らかにする目的で、そのmRNA、タンパク質(抗原)および酵素活性の特異的測定系の確立と個体由来試料中の各発現レベルの定量的測定を検討した。mRNA測定については、構造類似遺伝子と識別可能なRT-PCR条件を見出し、目的DNA断片を選択的に増幅できることをSSCP解析で確認した。mDD抗原測定については、ポリクローナル抗体を用いたELISA法を確立した。両測定法により、mDDのmRNAおよび抗原は成長過程を通して肝臓・胃・小腸において他組織より高発現であり、組織粗抽出液の(mDD抗原)/(総タンパク量)の比は成長に伴い増加することを明らかにした。mDD酵素活性測定については、代表的基質についてキャピラリー電気泳動法を用いた反応生成物の定量的測定系を確立し、本法で解析した成長に伴う酵素活性変動と抗原量変動の比較から、代表的基質に対するアイソザイムの存在を見出すとともに他のmDD特異的基質検索の必要性を認めた。 mDDの生理的機能を明らかにする目的で触媒特性を検討し、mDDはNAD(H)を良好な補酵素として生理的カルボニル化合物(Diacetyl Isatine等)や一部のヒドロキシステロイドあるいは生体異物(発癌性炭化水素化合物等)の酸化還元反応を触媒し、胆汁酸(リトコール酸等)による活性阻害を受けることを見出した。 本研究において、mDDは発生・成長期の生体内因性カルボニル化合物やヒドロキシステロイドの酸化還元代謝に関与することを明らかにし、胎生期の成長や妊娠維持に関与することを示唆した。また、出生後は、mDDは成長(加齢)に伴って消化器系組織(肝臓・胃など)の総活性量を上昇しながら、胆汁酸による活性調節を受けつつステロイド代謝あるいは生体異物代謝に関わることを明らかにした。
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