単一ヒト臍帯静脈内皮細胞標本に電気生理学的手法と細胞内Ca濃度測定法を適用し、スフィンゴシン1リン酸(S1P)の作用について検討した。S1Pの投与により、濃度依存的に細胞内Ca濃度が上昇した。内皮細胞を百日咳毒素で処理すると、このS1P誘発性の細胞内Ca濃度上昇は消失した。電位固定下、S1Pを投与すると、細胞内Ca濃度の上昇に先行し内向き電流が惹起された。逆転電位の測定から、この内向き電流は非選択性カチオンチャネル電流であることが判明した。さらに、このチャネルの活性は、細胞内GTPに依存し、GTPの非水解性アナログであるGTP-γSにより、その活性が持続的となった。 つぎに単一ヒト臍帯静脈内皮細胞標本に細胞内Ca濃度測定法を適用し、S1Pとパルミトイルカルニチン(PLC)の相互作用について検討した。PLCの投与により、濃度依存的に細胞内Ca濃度が上昇した。この効力はS1Pと比較し、約30倍弱いものであつた。またS1Pに対する反応とPLCのそれは、有意な相関を示し、PLCがendothelial gene product(Edg)受容体に作用することを強く示唆した。さらにPLCに引き続いて、S1Pを投与すると、S1P誘発のCa応答は、有意に減弱していた。 最近、S1Pは、ヒト血管内皮細胞の強力な増殖因子の一つであると報告された。本研究成果は、ヒト血管内皮細胞に対するS1Pの新機能を明らかにしたものであり、非選択性カチオンチャネルがS1P誘発性の増殖反応に深く関わる可能性が高い。また虚血時に細胞から遊離されるPLCは、内皮細胞に存在するEdg受容体に作用し、Ca応答を引き起こすと考えられる。さらに内皮細胞がPLCに暴露されると、S1Pによる細胞応答が阻害され、血管内皮細胞の増殖阻害・再生阻害が引き起こされる可能性が高い。
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