最近、Smadと呼ばれる一群のタンパクがTransforming growth factor β (TGFβ)やそのスーパーファミリーメンバーの細胞内シグナル伝達や転写を正や負に制御していることを申請者らを含め、明らかにしてきている。しかしながら、これらSmadタンパクの安定性に関しては明らかにされていない部分が多く、本研究ではTGFβのシグナル伝達が特にSmad3タンパクの安定性を中心にどのように制御されているか明らかにすることを目的として実験を進めた。 まず、プロテアソーム阻害剤存在下でTGFβ応答性のレポーター活性が上昇し、Smad3の発現量が上昇すること、無刺激状態の種々の細胞でSmad3のユビキチン化活性、分解活性が存在していることを明らかにした。ほかのSmadタンパクであるSmad1やSmad7はその分子内に存在するPY motifを介してそれぞれのユビキチン化の実行酵素(E3)であるSmurflやSmurf2と結合し、ユビキチン化されていることが報告されており、Smad3もこのPY motifを有しているが、この部分を欠損させてもSmad3の分解には全く変化が認められず、また、Smad3のTβRIによるリン酸化、活性化部位であるC末端の-SSXSを-AAXAに置換した変異体(Smad3 3SA)においても同様のユビキチン化、分解が検出されたことから、Smad3はSmad2と同様に、定常状態では細胞質でユビキチン化され、細胞質内のプロテアソーム活性により分解されているが、その実行酵素は既知のSmurf以外のものであることが示唆された。一方、TGFβ刺激によって細胞質のSmad3のユビキチン化活性が亢進すると同時にリン酸化・活性化されたSmad3もプロテアソーム活性により分解されることも見出された。さらに、プロテアソーム阻害剤存在下ではユビキチン化Smad3はTGFβ刺激により核内でも検出され、核内でのSmad3の分解活性の存在の可能性が示唆された。さらに、Smad3はp300などでアセチル化され、Smad3の安定性に関与している可能性を見出した。以上のことから、Smad3はTGFβ刺激非依存的、及び依存的の少なくとも2種類の分解経路が細胞内で存在していることが明らかとなった。
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