テストステロン(Ts)の合成・分泌は、精巣内のLeydig細胞が主に担っている。この細胞内では、コレステロール(Chol)がSteroidogenic Acute Regulatory protein (StAR)の働きによりミトコンドリアの内膜へ運び込まれ、内膜に存在するステロイド側鎖切断酵素によって代謝されプレグネノロン(Preg)に変換される。Pregはその後、小胞体で代謝されてTsになる。この一連の過程のうち、Cholがミトコンドリアの内膜へ運ばれる過程がTs合成の律速段階といわれており、ここを司るStARはTs合成にとって重要なタンパク質といえる。 我々はこれまでに、ラット精巣のLeydig細胞において、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)によるTsの合成と分泌が、D-アスパラギン酸(D-Asp)によって亢進されることを見出した。また、D-AspによってLeydig細胞内のStARのmRNA量とタンパク質量がともに増加することを明らかにした。また、D-AspのLeydig細胞内への取り込みを阻害すると、このような促進効果が認められなくなることから、D-Aspは細胞内に取り込まれる必要があることが明らかになった。本研究において我々は、mLTC-1 (mouse Leydig Tumor Cell-1)細胞がLeydig細胞の良いモデルになることを明らかにすることができた。すなわち、mLTC-1細胞の培養系に、hCGの代わりとなる8-Br-cAMPとともにD-Aspを加えると、StARのタンパク質量が増加することを見出した。この際、D-Aspを細胞内に取り込むグルタミン酸トランスポーター(Glu-T)を一過的に発現させる必要があった。このことは、D-Aspが細胞内に取り込まれることがStAR遺伝子の発現促進に必要であることを示している。さらにこの点を確かめるために、mLTC-1細胞のGluT安定発現株を単離した。この安定発現株において、D-Aspは8-Br-cAMPによるStARのタンパク質量の増加を亢進させたが、親株のmLTC-1細胞では、D-Aspのこのような活性は認められなかった。以上のことから、D-AspはmLTC-1細胞内に取り込まれてStARの遺伝子発現を促進していることが明らかになった。今後は、mLTC-1細胞を用いて、D-AspがStARの遺伝子発現を促進する詳しいメカニズムを明らかにしたいと考えている。
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