我々は、既知の抗癌剤とは異なる作用機構で癌細胞にアポトーシスを誘導する種々の薬物を見出し、それらのアポトーシス誘導剤の作用機構を研究してきた。その研究過程で、シコニンの誘導体がチロシンキナーゼ阻害活性を有することを見出した。本研究では、化学合成した3種のシコニン誘導体および生薬シコンから精製した4種のシコニン誘導体のチロシンキナーゼ阻害活性を、単離EGFリセプターを用いて調べた結果、β-ヒドロキシイソバレリルシコニン(β-HIVS)の阻害活性が最も大きいことがわかった。そこでβ-HIVSを用いて、EGFリセプター、v-Src、血管内皮細胞増殖因子リセプター(Flk-1/KDRおよびFlt-1)、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、カルモデュリンキナーゼ2に対する阻害活性を調べたところ、EGFリセプターとv-Srcが最も強く阻害された。プロテインキナーゼAなどのセリン・スレオニンキナーゼは、チロシンキナーゼ活性が阻害される100倍濃度のβ-HIVSによっても阻害されなかった。V-Srcのチロシンキナーゼ活性に対する阻害活性をATPの濃度を変えて測定し、Lineweaver-Burkのプロットをとると、阻害様式はATPと非拮抗的であった。現在開発中のチロシンキナーゼ阻害剤のほとんどはATPと拮抗して阻害するが、β-HIVSはそれらと異なる作用機構のチロシンキナーゼ阻害剤であると考えられる。
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