チロシンキナーゼ阻害剤から有用な抗癌剤が開発されはじめている。我々は、シコニンの誘導体であるβ-ヒドロキシイソバレリルシコニンが、チロシンキナーゼであるEGFリセプターや癌遺伝子産物であるv-Srcを分子標的として阻害することを見出した。本研究ではβ-ヒドロキシイソバレリルシコニンと相乗的にEGFリセプターやv-Srcのチロシンキナーゼ活性を阻害する薬物をスクリーニングした。その結果、β-ヒドロキシイソバレリルシコニンと抗癌剤であるシスプラチンを併用したときに、EGFリセプターやv-Srcのチロシンキナーゼ活性が顕著に阻害された。シスプラチンはDNAに化学的に結合して障害を与えることが知られているが、EGFリセプターをシスプラチンを単独で処理したときでもチロシンキナーゼ活性が阻害された。ヒトの小細胞肺癌DMS114細胞をβ-ヒドロキシイソバレリルシコニンとシスプラチンを併用して処理すると、細胞増殖が相乗的に阻害され、アポトーシスが相乗的に誘導された。また、DMS114細胞のチロシンキナーゼ活性も、β-ヒドロキシイソバレリルシコニンとシスプラチンとの併用により相乗的に阻害された。したがって、β-ヒドロキシイソバレリルシコニンとシスプラチンがDMS114細胞のある種のチロシンキナーゼを相乗的に阻害することが、細胞増殖阻害とアポトーシスを誘導することが示唆された。また、DMS114細胞をヌードマウスに移植し、β-ヒドロキシイソバレリルシコニンとシスプラチンを併用投与したときの抗腫瘍作用を調べて、データを集積中である。β-ヒドロキシイソバレリルシコニンの急性毒性は認められなかった。
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