研究概要 |
真核細胞において高分子がシグナル依存性に核膜孔を介して転移する機構は、分化・増殖や細胞の機能と密接に関連する。放線菌の代謝物であるレプトマイシンB(LMB)が、特定の細胞質局在タンパクの核外移行シグナル(NES)と担体タンパクのCrm1との結合を特異的に阻害するとの知見により、現在急速に核外排出機構の解析が進められている。本研究は、Crm1のLMB結合部位が種を超えて高度に保存されている事実に着目し、Crm1に対する内因性阻害分子が存在するとの作業仮説を立てこれを検証するものである。 LMBのα,β-不飽和ラクトン環がCrm1との結合に必須である事実に基づき、同様なラクトン環を有しLMBと立体構造が類似するブファリンに着目した。ブファリンは、LMBと同様に白血病細胞の増殖をG2/Mで停止させた。そこで、NESを付加した緑色蛍光タンパク(GFP)を安定に発現するヒト肝がん由来HepG2細胞を作成し、ブファリンの効果を検討した。その結果、LMBはGFPの核局在を誘導したがブファリンはほとんど影響を与えなかったことから、Crm1に対する直接的な阻害作用は無いものと推察された。次に、LMB以外のNES機構を阻害する化合物・天然物を検索する目的で、スクリーニングを行なった。82種の天然物成分および32種のキナーゼ阻害剤・抗がん剤等既知物質の内、レプトマシンBに匹敵するNES阻害作用を示す物質はなかった。しかし、キナーゼ阻害剤スタウロスポリンやK252a、ステロイド化合物のプロゲステロンおよび生姜成分8-Shogaolでは細胞死と並行してNES-GFPの核集積が認められたことから、これらの化合物がCrm1依存性の核外移行を阻害する可能性が示唆された。
|