人の本態性高血圧のモデルとされる遺伝的高血圧ラット(SHR)における視床下部前部アンジオテンシン受容体機能亢進の機序を明らかにすることを目的として、本年度は、本部位におけるアンジオテンシン受容体感受性増大がSHRの高血圧発症過程のいつから現れるのか、本アンジオテンシン受容体mRNAの発現増大は同受容体遺伝子発現調節領域の異常に原因があるのかを検討した。視床下部AT_1受容体mRNAは高血圧発症前の4週令からすでに対照の京都ウイスターラット(WKY)と比較して増大していることを明らかにした。また、側脳室適用したアンジオテンシンIIの昇圧反応はやはり4週令からすでにSHRにおいて増大していた。比較のために投与したコリン作動薬のカルバコールによる昇圧反応はSHRとWKYの間に昇圧反応に差は認められなかった。以上の結果は、SHR視床下部におけるAT_1受容体遺伝子発現の亢進は高血圧による二次的なものに由来しないことを示唆する。次にこのSHRにおけるAT_1受容体遺伝子発現の亢進は同遺伝子発現調節領域の異常に原因があるのかを明らかにするためにSHRのAT_1受容体遺伝子5'転写調節領域を解読した。AT_1受容体の遺伝子クローニングにより、その5'転写調節領域をプライマー伸長法およびRNAase protection法により固定して作製した。AT_1受容体遺伝子5'転写調節領域下流の-1615から-1608はWKYにおいてはCAACAATC、SHRにおいてはCATCAATCであった。しかしこのSHRの配列はSDラットのそれと同一であった。以上から、SHR AT_1受容体遺伝子5'転写調節領域に同遺伝子の発現異常を説明できる変異を見い出すことはできなかった。
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