研究概要 |
人の本態性高血圧のモデルとされる遺伝的高血圧ラットにおける脳アンジオテンシン系亢進の機序を解明することを目的として、前年度は、遺伝的高血圧ラットにおけるアンジオテンシンAT1受容体遺伝子発現の増大は同受容体遺伝子発現調節領域核酸配列の異常に由来していないことを明らかにしてきた。また、AT1受容体mRNAの消失速度についても、むしろ遺伝的高血圧ラットにおいて増大していることを見い出した。平成14年度は、AT1受容体mRNAの発現に関わる転写調節因子レベルに異常があってこれが遺伝的高血圧ラットの同受容体遺伝子発現の増大につながっているか否かについてゲルシフト法を応用して検討した。その結果、AT1受容体遺伝子の発現に関わる転写調節因子のうちSp1とAP2が遺伝的高血圧ラット視床下部核酸抽出液中において増大していることを示唆する証拠を得た。その他の転写調節因子、Sp2,AP1,CREB, NFK-B, GRE, Oct-1については同核酸抽出液中において遺伝的高血圧ラットと対照ラットの間に差異を認めなかった。これらの結果から、遺伝的高血圧ラットにおいては、このSp1とAP2の異常がAT1受容体の発現を増大しひいては高血圧の発症をひきおこしている可能性があると考えられる。実際、Sp1およびAP2の遺伝子結合を遮断する二重鎖核酸化合物(デコイ)を遺伝的高血圧ラットの側脳室へ投与すると、同ラットの高血圧が下降した。今後、遺伝的高血圧ラットにおけるこれらの転写調節因子発現異常の病態生理学的意義を明らかにすることにより、高血圧成因の脳内機序の解明につながるであろう。
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