糖尿病網膜症では、血管のない器官である硝子体に血管が伸長するため、硝子体の生理的機能の解析が重要である。そこで申請者は、機能的、形態的構造がヒトに類似しており、新鮮な状態で全摘出が可能で、かつ、臓器の持つ立体的構造を生かした研究が可能な鶏胚硝子体を用い、以下の諸点を明らかにした。 1.硝子体に存在する生理活性物質の局在性の検討。(平成13年度) 鶏胚硝子体を、超遠心分離法により液性部分と沈殿部分に分離し、u-PA(ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子)とTGF-β_2を測定した。u-PA活性は硝子体液性部分にはほとんどなく、沈殿部分に分子量約55kDaのu-PA二量体として局在していた。活性型TGF-β2も総量の約80%が硝子体沈殿部分に局在していた。血漿u-PAは、硝子体の高分子マトリックスに結合し、局所的にTGF-β2などの活性化に関与していると思われた。 2.血漿処理した硝子体における細胞接着性の変化。(平成14年度) 血漿を37℃で3時間作用させた硝子体にはフィブロネクチン(FN)が付着し、未処理硝子体に比べて強い細胞接着性を示した。また、プラスミノーゲンも検出された。糖尿病による血管透過性亢進により、硝子体が血液に晒されると、FNやプラスミノーゲンなどの数多くの血液成分が硝子体に付着する可能性が明らかとなった。硝子体を試験管内で血漿と作用させるという本モデルは、糖尿病初期に起こる網膜血管透過性亢進が硝子体に与える影響を解明する上で有用と思われる。 本研究では、新鮮な鶏胚硝子体を用いることにより、生理的役割を組織全体として解析することが可能となり、血管新生調節因子類の局在性や、血漿成分による硝子体の生理機能の変化についてその一部を明らかにすることができた。今後、糖尿病網膜症の発症過程における硝子体内血管新生の機序との関連についての研究に応用して行きたい。
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