動脈硬化の発生要因として酸化LDLの重要性が広く認められている。当研究室では、モノクローナル抗体を応用した酸化LDL測定法を開発し、ヒト血漿中に酸化LDLが微量ながら存在することを世界に先駆けて見出してきた。一方で、変性LDLのモデルとして多用されてきた硫酸銅処理による酸化LDLが、生体内で生じる酸化LDLの性状を反映しうるかどうか、が改めて問われている。近年、緩和な酸化条件で調製した微少酸化LDL(MM-LDL)が、生体内酸化LDLのモデルとなる可能性が指摘されている。そこで、種々の酸化条件により、修飾の程度の異なる酸化LDLを調製し、その性状を比較した。 昨年度までに、Berlinerらの方法に従い、鉄イオン存在下に低温で透析することで調製したMM-LDLでは、硫酸銅処理酸化LDLに比べて、TBARS値は1/4以下の低値であったが、共役ジエンの生成やELISAによる酸化LDL抗原性においてはほぼ同等の値、そして有機溶媒で抽出される脂質中のアルデヒド型酸化PC量においては、約10倍と著しく高値であることを見出した。反応条件により、酸化生成物と修飾構造のパターンの異なる変性LDLが得られることを明らかにした。(現在投稿中) 本年度は、生体内の酸化LDLの性状をこれらの酸化LDLモデルと比較するために、微量の血漿中酸化LDLを分離する条件、および微量試料の性状解析を可能とするより高感度の分析条件について予備的な検討を進めた。抽出した脂質中のアルデヒド型酸化PCは、蛍光誘導体とすることで10pmol程度での検出が可能であるが、ESI/MS法(名古屋市大薬、田口先生との共同実験)によりさらに高感度の検出が可能であることがわかった。血漿LDLをイオン交換ろ過HPLC法、あるいは密度勾配遠心で分画を試みたが、これらの分離モードでは酸化LDL特異的な分離は得られなかった。現在、DLH3抗体を用いた免疫沈降法を検討中である。血漿および病巣中の酸化LDLの分離と解析まで、もう一歩のところであると考えている。
|