研究概要 |
心筋梗塞後・血液拍出量が低下、すなわち心ポンプ機能が低下した状態(心筋梗塞後心不全)での心筋熱ショックタンパク質(Hsp)含量を測定したところ、Hsp60含量が増加した。この不全心ではミトコンドリアのエネルギー産生能が低下しており、Hsp60の増加が心筋ミトコンドリア機能低下に関与することが示唆された。通常、Hsp60は、ミトコンドリア内で分子シャペロンとして機能すると考えられている。心筋梗塞後不全心ではミトコンドリアでのHsp60量が増加しただけでなく、細胞質のHsp60量も増加しており、ミトコンドリアへのストレスの増大が、Hsp60合成を促進させる他に、ミトコンドリア外でのHsp60の新たな役割が推測された。Hsp60がミトコンドリア内で機能する時、Hsp10と複合体を形成するとされているので、Hsp10の含量も測定した。その結果、Hsp10はわずかに増加するものの、心筋梗塞後不全心でのHsp60増加の度合いとHsp10のそれは一致しないことが示された。培養細胞にHsp60あるいはHsp10遺伝子をトランスフェクションし、いずれか一方を過剰発現させても低酸素負荷/再酸素化障害への耐性は上昇しなかったが、両者を過剰発現させると耐性が上昇した。すなわち、Hsp60とHsp10の複合体を形成するよりも過剰なHsp60が細胞質にあり、ミトコンドリアへのストレスに対応できないと考えられた。本研究により、不全心でのエネルギー産生能低下が遺伝子導入による治療で改善されることが示唆された。すなわち、熱ショックタンパク質が,心筋梗塞後不全心の機能改善のための遺伝子治療の標的となる可能性が示された。
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