心筋梗塞後不全心の熱ショックタンパク誘導能変化が心機能および心筋代謝に及ぼす作用について検討した。心筋梗塞後8週目、すなわち心ポンプ機能が低下する心不全期ではHsp70のストレスに対する誘導能が低下していることを示したHsp70によるストレス性障害から心筋細胞を保護する機序として、Hsp70は核に移行することにより、poly(ADP-ribose)synthetase活性化の抑制を介してストレスによる酸化的障害からDNAを保護することを示した。次に、不全心ではHsp70タンパク量が増加した。通常、Hsp70は、ミトコンドリア内で分子シャペロンとして機能すると考えられている。心筋梗塞後不全心ではミトコンドリアだけでなく細胞質でのHsp60量が増加した。ミトコンドリアへのストレスの増大が、Hsp60合成を促進させる他に、ミトコンドリア外でのHsp60の新たな役割が推測された。ミトコンドリア内でHsp60は低分子量シャペロンのHsp10と複合体を形成するとされている。心筋梗塞後不全心のHsp10はわずかに増加するものの、Hsp60増加の度合いとHsp10のそれは一致しなかった。すなわち、Hsp60量がミトコンドリア内でHsp10と複合体を形成する量よりも過剰となるため、Hsp10と複合体を形成できなかったHsp60が細胞質に残留し、ストレスに対するミトコンドリアの耐性を上昇させることができないと考えられた。
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